この恋は少しずつしか進まない
「敵って……なにしたの?」
「なにっていうか……泣かせたっていうか」
ポリポリと頬を掻いて口を濁す加島を見てると、相当言えないようなことをしたのだと悟った。
「私も偉そうなことは言えないけど、家族を泣かせるとか一番やっちゃいけないことだと思うよ」
いつも美伽にお説教される私だけど、ここは先輩としてガツンと言ってやらないと、とスイッチが入った。
「ほら、男子って特に親にきつい当たり方する時あるじゃん?私は離れて暮らしてるから染々思うんだけど本当に親って偉大だし、こうして自分がここにいることにだってちゃんと感謝しないと……って聞いてる!?」
まだ話しているというのに、加島はクッションから腰を上げてしまった。
「先輩、シャワー借りますね。今日体育あったから身体がベトベトなんすよ」
許可してないのに加島は脱衣場の扉をぴしゃっと閉める。
……そうだ。忘れてたけど加島は長話をはじめるとすぐに飽きる。
聞くだけ聞いておいて、こっちが丁寧に教えても気づけばどこかに行ってるようヤツだった。
先が思いやられる。いや、先なんて考えちゃいけない。
今日は私が誘惑に負けたので仕方ない。美味しいご飯とプリンを作ってもらう代わりに一晩ぐらいなら泊めてもいい。
でも長期はダメだ。
加島とはなにかと波長が合わなそうだし、考えてみれば後輩を家に泊め続けるなんて、それこそ私を信じて都内の高校に進学させてくれた親を泣かせることになる。