この恋は少しずつしか進まない
「ねえ、水沢先輩」
冷蔵庫を漁り終えた加島が私に近づいてきた。その気配はなんとなく視界の片隅で捕らえているけれど、視線は相変わらずそっぽを向いたまま。
「もしかして男の裸に慣れてないんですか?」
せっかく見ないようにしてるのに、加島はひょこっと私の顔を覗いてきた。
「な、慣れてるほうがおかしいでしょ」
むしろ裸に驚きもせずに『シャワーの温度大丈夫だった?』なんて言えたなら、昔の恋愛を引きずったりなんてしてない。
「彼氏は?」
なのに加島は無神経なことをずけずけと。
「いない。ってかいたら加島を家に上げないから」
「それもそうですね」
そう言って加島は先ほどのクッションの上に座った。テレビのリモコンを持って許可なくテレビを付けてしまう図々しさにもう驚いたりはしない。
「あのさ、期待させたかもしれないけど、一晩だけ泊まったら他を当たってくれない?」
私は加島の背中を見て言った。
すると、チャンネルを変えていた加島が困ったように振り向いた。それは眉を下げてすがるような表情。
「俺こう見えてけっこう出来る男っすよ」
私の言ったことも聞かずにまだトレーナーを着ていない加島が私のことをじっと見てくる。