この恋は少しずつしか進まない
「昼間も言いましたけど、水回りの掃除できますし、洗濯物も綺麗に畳めます。腹は丈夫なんで賞味期限が迫った食べ物の処理もいけますし」
バイトの面接かってぐらい自己アピールがすごい。
「なにより俺けっこう可愛くないっすか?」
そして留めの一言。自分のルックスを武器にするなんて、加島はけっこう侮れない。
「可愛いは役に立たないから」
母性をくすぐるような感じはあるけど、私は加島の母親じゃないのでそこまで面倒は見られないし。
「立ちますよ。先輩の心がひどく荒れた時にはすり寄って慰めます」
「ひどく荒れることはないと思うけど」
なびかない私に加島はムッとする。
そんなふて腐れても私は知らないし、そもそも家に帰れない事情を作った加島が一番悪いと思う。
「だったら、この一晩で先輩の心を掴みます。晩ごはんなに食べたいですか?なんでも作ります」
……そういう問題じゃないんだけどな……と思いながらも、招き入れたのは私だから、とりあえず中華が食べたいとリクエストした。
私は本当に手際がよくて、あっという間に麻婆豆腐やエビチリを作ってしまい、その味は文句が言えないほど美味しかった。