この恋は少しずつしか進まない
「でも恋愛の仕方忘れちゃってるし……」と、私は口を濁す。仕方を忘れた、というより恋愛に前向きになれていないことは美伽にはお見通しのようで……。
「そんなこと言ってると、すぐにおばあちゃんになっちゃうからね」
「はは、さすがにそれまでにはなんとかするよ」
「どうだか。伊織は可愛いのにけっこう無頓着なところがあるし、そもそも自分のポテンシャルをまったく分かってない!」
また美伽のお説教タイムがはじまってしまった。
「まずは公共の場であぐらをかかない!スカートなのにパンツが見えたらどうするの?」
「見えない、見えない」
「あと髪の毛に寝癖がついてる!どうやって寝たらそんなに頑固な寝癖がつくの?」
「昨日、乾かさずに寝たからかな」
「それと!さっきから頬っぺたにご飯粒がついてる」
「え、嘘、どこ?」
ペタペタと自分の顔を触ると、たしかにご飯粒が右頬についていた。
おにぎりを食べた時かな。でもおにぎりは最初に食べたから10分は経っている。……って、ことはその間ずっと頬っぺたについてたってこと?
「もっと早く言ってよ」
基本的に鏡も見ないから、危うく気づかないまま教室に戻るところだった。
「早く言ってよ、じゃないの。自分で気をつけてよ。本当に伊織はしっかり者に見えて抜けてるところがあるっていうか……」
「あ、美伽!スマホ鳴ってる!彼氏からじゃない?」
タイミングよくお説教が中断されて、美伽は「終わってないからね」と言いながらも電話に出るためにこの場から離れた。