この恋は少しずつしか進まない
「俺、線路沿い歩くの好きです」
私たちは支度を終えて学校へと向かっていた。
こうして一緒に登校してるなんて信じられないけど、加島はキョロキョロと景色を楽しむようにご機嫌だった。
「加島の家ってどこ?」
「6区のグリーンタウンです」
「ああ、あの住宅街」
都市開発とかで同じ家がずらりと並んでるエリア。
私は田舎出身だし、元々田んぼに囲まれているような場所で育ったから都内に住むことになっても、下町の風景が残っている場所を選んだ。
「ねえ、今の子カッコいい」
女子大生らしき二人組とすれ違い、加島のことを振り返って見ている。
……加島って、カッコいいのかな?
相変わらずピンクアッシュの髪色は目立つし、歩き方も雑だし、靴の紐はやっぱりゆるゆる。
掃除もできるし料理も上手だけど、どこかだらしないというか……個性が丸出しだから、やっぱり私はタイプじゃない。
「先輩、俺ずっと言おうと思ってたんですけど……」
女子大生たちの視線には反応しなかったくせに、加島は急に真剣な顔つきになった。
「な、なに?」
また厄介な相談だろうかと、身構える。
「前髪ヤバいです。滑り台ができそうなぐらい直角です」
「……え、う、嘘!?」
スマホのカメラで自分の姿を写すと、たしかに悲しいぐらいに反り返っている。
厄介な相談ごとじゃなくて安心したけど、これはこれで問題だ。今さら手で押さえてもどうにもならないくらい頑固な寝癖になってしまっている。