この恋は少しずつしか進まない
「顔洗う時に気づくでしょ、普通」
「鏡見ないから……」
「見てくださいよ、鏡ぐらい」
だって顔洗う時も洗顔フォームを泡立てて、ちゃちゃっと洗い流すだけだし。
歯磨きだって歯磨き粉を付けたあとに磨きしながらなにかをしたい主義だから洗面所には留まらない。
髪の毛だって別に鏡を見ずに寝癖直しのスプレーをしてクシで適当にとかすだけ。
「先輩って、けっこうズボラっていうか抜けてますよね」
加島はそう言いながらクスリとする。
……美伽にしか気づかれてなかったことなのに加島にバレてしまった。
「まさか言いふらす気?」
自称しっかり者で通っているイメージがあるから、なんとしてもズボラだとは思われたくない。
「言ったところで幻滅する人なんていないと思いますよ。むしろ可愛いって思うんじゃないですか、俺みたいに」
加島は目を細めてニコリと笑った。
これが本心なのか計算なのか私には分からない。
でも少なからず加島は絶対に人のことを悪く言ったりしないところが長所だと思う。