この恋は少しずつしか進まない



「一生懸命作ったってどうせこの雨でダメになるよ」

すでに段ボールには雨が染み込んでいて、どんどんぺちゃんこになっている。


「それでも作ります」

「意地張らないで」

「そんなんじゃないです」


最初から一癖も二癖もあることは分かっていたけれど、それプラスけっこう頑固者らしい。

友達は無駄に多いのに全然頼らないし、あんたのことを可愛いってちやほやしてくれる人のところに行けばいいのにそれもしない。


――『お願いします!!俺を犬だと思ってください』


思えるわけないでしょ、バカじゃないの。

加島は人だよ。後輩だよ。男だよ。

そんなヤツを家に置くなんて本当に本当にありえない。



「いいよ。うちに来ても」


ありえないけど、放っておけない。 

面倒見がいいにも程がある。


「……今日だけって意味ですか?」 

加島が濡れた瞳で振り向く。


「違うよ。今日も明日も明後日も、加島が家に帰れるようになるまでいればいいよ」 


加島は私の言葉に段ボールから手を離して立ち上がった。ポタポタと滴り落ちている雫。前髪の隙間から見えた瞳が案外綺麗なことに気づいた。


「追い出されても出ていきませんからね」


いつかこの日のことを後悔するかもしれない。  

でも、加島を受け入れてよかったと思うかもしれない。 


それは、やってみなきゃ分からない。
 
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