この恋は少しずつしか進まない
それから急ぎ足で家に帰った私たちはバケツをひっくり返すぐらいじゃ済まないくらいびしょ濡れだった。
「今お風呂溜めるからとりあえずこれで髪の毛拭いて」
洗面所のバスタオルを加島に投げる。
……制服もびしょびしょ。乾燥機に放り投げたいけど制服はダメだし。ハンガーにかけて風通しがいい場所に干しておけば明日には乾くかな……。
バタバタと忙しなく動いている私とは反対に、加島はとてものんびりとしていて髪の毛だってまだ拭ききれてない。
「もう、貸して!」
私はバスタオルを奪い取り、わしゃわしゃと加島の髪の毛を拭きはじめた。
「もう少し頭下げて」
「こうですか?」
「うん」
身長が高いから真っ直ぐされてると手が届かない。
「俺、誰かに髪の毛拭いてもらったの初めてです」
「私だって誰かの頭なんて拭いたことないよ」
「いいもんですね。やってもらうのも」
きっと加島は年下の子としか付き合ったことがないから、やってあげることのほうが多かったんだと思う。
私も年上の人としか付き合ったことがないから、やってもらうことのほうが多かった。
加島は痛いくらい強く拭いても怒らない。むしろ気持ち良さそうにじっとしてるから……。
ちょっと可愛いところもあるじゃんって思っちゃった。