この恋は少しずつしか進まない
髪の毛を拭き終わった頃、お風呂の給湯器からピピッと音がした。これはあと5分ほどでお風呂が沸く合図。
「加島、これ」
私は黒色のスウェットを差し出した。
「お姉ちゃんの彼氏がたまに使ってたやつだけど、ちゃんと洗濯してあるからお風呂から出たあとはこれ着て」
「勝手に借りていいんすか?」
「いいよ。半同棲はじめてからはうちに来ることもなくなったし、私もお姉ちゃんが置いていった洋服は自分のものにしてるから」
近々クローゼットを整理してスウェットも処分してしまおうと思ってたから、取っておいてよかった。
スウェットを広げるとサイズは問題なさそうだから、これを部屋着として使ってもらって、あとは……。
「実は水沢先輩の元カレのだったりして?」
そんな冗談を言う加島に私はスウェットを投げつけて、見事に顔面に直撃させた。
「ちょ、痛いっすよ!」
「ほら、早く先にお風呂に入っちゃってよ。その間に濡れた制服はなんとかしとくから」
「分かりました」
すると加島は躊躇なくトレーナーに手をかけて、昨日と同じように上半身が裸になってしまった。
「こ、ここでじゃなくて脱衣場で!」
なんでいちいち言わないと分からないのかな。また視線のやり場に困ってしまう。
「もう、徐々に慣れてくださいね?」
何故か加島に呆れた声をされてしまい、そのまま脱衣場へと消えていった。
慣れるってなに?加島の裸に?冗談じゃない。
……はあ、この先どうなるんだろう。今は不安しかない。