この恋は少しずつしか進まない
「でもこの⑥のところ。当番制じゃなくても俺が全部やりますよ」
加島が最後のルールを指さした。
たしかに加島は私より掃除上手だし任せておけば綺麗にしてくれる。でも……。
「いいよ。家政婦じゃないんだし」
その代わり土日はしっかりと押し付けてしまってるけど。
ルール表はつねにリビングに貼っておくことになり、加島の目線に合わせて少し高い場所に画ビョウを刺した。
「あと、大事なことがひとつだけ」
「まだあるんですか?」
これはもしかしたら一番守ってほしいことかもしれない。
でもさすがに紙には書きたくなかったし、本当は言うのも恥ずかしいんだけど、伝えないと加島は繰り返すから言う。
「わ、私の下着には触らなくていいから!」
今までは洗濯機に放り込んでいたけど、今日から手洗いにしようかな。じゃないと、加島はなんの躊躇いもなく干してしまうから。
「ああ、あのピンクのやつですか」
加島の視線が部屋干しラックへと向く。
まだ取り込んでいなかった今朝の下着はそのまま先頭でぶら下がっていた。
「と、とりあえずルールは絶対!分かった?」
パチッと洗濯バサミから外したブラとパンツ。
Aカップという悲しい小ささは見た目でバレているからいいとしても、こういうのを選んで買ってるんだって好みがバレることがたまらなく恥ずかしい。
なのに、加島は「はいはい、分かりましたよ」と軽い返事をするだけ。
本当に分かってるのかな。
もっとガミガミ言ってやろうと思ったのに加島が急に姿勢を正して「先輩、これからよろしくお願いしますね」なんて丁寧に頭を下げるから……。
思わず「うん。よろしく」と返事をしてしまった。