この恋は少しずつしか進まない
私だって別に加島のことなんてなんとも思ってないし、意識もしてないけど、俯瞰的に考えるとやっぱり同じ空間で寝てしまうのは違う気がする。
ベッドは楽々と部屋の前まで運ぶことができた。
あとはまた折り畳んであるベッドを広げるだけだから手助けはいらないのに、加島は私の後をついてくる。
「俺、先輩の部屋見たいです」
うん、言うと思った。
「別になんにもないよ」と、私はドアを開ける。
壁の右側にある電気を付けようとした瞬間――。ガサッと私の顔の前を黒い物体が横切った。
「ひぃぃぃっ……!!」
家全体に響くぐらいの叫び声を出したあと、私は加島の腕にしがみつく。
「どうしたんすか?」
「いいい、今、め、目の前にくくろい……」
動揺しすぎて言葉にならない。
「黒い虫ですか?」と、私の代わりに加島が電気をつける。そして部屋を確認した加島は一言。
「ああ、いますよ。ゴキブ……」
「ムリムリムリムリっっ!」
名前すら聞きたくない私は加島の背中にぴたりと張り付いていた。