この恋は少しずつしか進まない



「こんなところでなにしてんすか?」


ザッザッと地面を擦るような足音に、熟したリンゴのような赤いスニーカーを履いて、紐が今にもほどけそうなのはいつものこと。


学校指定のカッターシャツの上にロゴ入りトレーナーを着て制服のズボンはスウェットかってぐらいゆったりと履いている人物の名前は――。


「なにしてるってお弁当食べてるんだよ。加島(かしま)はまた飲み物だけ?」

「俺基本的に1日1食生活なんすよ」

「そんなんだからひょろっとしてるんだよ」

「そうですか?これでも筋肉はちゃんとありますよ」
 
そう言ってトレーナーをめくって見せてくれた腕はたしかに想像よりもがっちりとしていた。


――加島直人(なおと)。

私を慕ってくれている後輩のひとり。


仲良くなったきっかけは忘れちゃったけど、加島はのら猫のように神出鬼没で、すごく気まぐれ。

ひとりでいることもあるし、大勢でいるときもあるし。眠たい時は話しかけても気だるい返事しかしないのに、こうやって自分からすり寄ってくる時もある。


後輩に慕われるのは嬉しいけど、あまりベタベタされるのは苦手だから、加島のように気まぐれで声をかけてくれるほうが私的には楽だったりする。

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