この恋は少しずつしか進まない
「一応、確認しましたけど部屋には一匹だけしかいなかったみたいですよ」
「絶対嘘。ヤツは仲間を呼んでるはずだよ」
ああ、ホームセンターに行って駆除用のあれやこれやを買いにいかなくちゃ……。
「ベッドの移動はどうするんですか?」
「アイツが出た部屋になんて行けるわけないでしょっ……!」
考えただけで怖いし気持ち悪いし、できることなら引っ越したい。
「じゃあ、俺が先輩の部屋で寝ましょうか?布団だったらすぐに運べますし」
「ま、待って。夜とかリビングに出てきたらどうすんの?」
私は引き止めるように加島の手を掴んだ。
一匹いなくなったからって全然安心できないし、むしろあの横切った衝撃が忘れられなくて、小さな物音でもビクッとなってしまう。
「そしたら、そこら辺のもので叩けばいいでしょ」
「ムリ……」
普段は先輩風を吹かせているっていうのに、一気に立場が逆転したように加島は弱腰の私にため息を吐いた。
「じゃあ、昨日みたいに一緒にリビングで寝るってことでいいんですね?」
「うん。いい。ずっとリビングで寝る」
そんな弱気な私を見て加島はクスリとする。
「だったらベッド戻して早く寝ましょう。明日起きれなくなりますよ」
なだめるようにしてポンポンとされた頭。
ドキッとはしなかったけど、普通の女の子だったらキュンとしてしまうんだろうなって。加島が人気の理由がちょっとだけ分かった気がした。