この恋は少しずつしか進まない
彼の名前は――大場(おおば)辰己。
私より10歳上の人だった。
付き合ってた時は私が16歳。彼は26歳。
大学を卒業して就職した会社では出世街道まっしぐらと言われていたほど真面目で周りの人たちにも信頼されている人だった。
だから出逢った頃から彼は私とは全然違って、大人で心が広くて私のすべてを受け止めてくれる人だった。
辰己さんとの出逢いは中学校の時の友達の紹介。
正直、10歳も上の人となにを話したらいいのか分からなかったし、騙されてしまうんじゃないかって不安もあった。
けど、友達を交えて会った時に、『あ……』って思った。
運命を感じたなんて言い方は大袈裟かもしれないけど、本当に稲妻に打たれたような衝撃がしたのは覚えている。
笑うと目尻が下がるところとか、クラクラするような甘いコロンを漂わせて持ち手の細いタバコを吸う姿も。
昔、勢いで開けたというピアス跡も、血管がほんのり浮き出ている腕も。
喋ると面白いのに上司の人から連絡があると急に仕事モードになり、書類を見るときは必ずメガネをかける。
そんな彼に、私は一瞬で恋に落ちた。