この恋は少しずつしか進まない
辰己さんとの付き合いは楽しいことしかなかった。
車でドライブに行ったり、私ひとりじゃ行けないようなお洒落なレストランにも連れていってくれた。
彼が地方に出張に行った時にはホテルまで会いに行ったこともあったし、私にとっては全部、未知の世界だった。
恋愛経験がなかった私に辰己さんはたくさんの初めてをくれた。
私が言うこと、やりたいことをすぐに叶えてくれたり、ぎゅっと強く抱きしめられるとこんなに幸せでいいんだろうかと涙が出るくらい。
でもそんな幸せは一年足らずで終わった。
『別れてほしい』
そう言ってきたのは辰己さんからだった。
これは今考えても後悔してることだけど、私は別れを告げられた時、理由も問いたださずにただ一言だけ『分かった』と言った。
彼に好きな人ができたのかもしれないし、私に飽きてしまったのかもしれないし、それはいまだに分からない。
でも私は物分かりがいいふりをすることで、少しでも彼に〝いい彼女だった〟と思われたかったんだと思う。