この恋は少しずつしか進まない



「っていうか前髪切りました?」

「うん。切った。切りすぎたの分かる?」

「なんかアレみたいっす。クレラップのCMの子」

「いやいや、そこまでじゃないでしょ」

と、否定しながらも、私は前髪を気にした。


美伽は前髪だけでも美容院に行って切ってもらうらしいけど、私はお金がもったいないといつも自分で切っている。


普段は失敗することは少ないんだけど、昨日はテレビを見ながら切ってしまい、おまけにくしゃみをした瞬間に手元が狂ってバッサリと……。

ヤバい!と思って修正に修正を重ねたら、どんどんバランスが悪くなってしまい、最終的にはこんな座敷わらしのような前髪になってしまったというわけだ。



「俺、前髪短いのけっこう好きですよ」

「加島に好かれてもなあ」

「そんなこと言うの水沢先輩ぐらいですから」


加島は自分でも認めてるぐらいよくモテる。下級生、上級生関係なく、女子の大半は毎日「加島くーん」って、猫なで声で話しかけている。

私は正直、加島がよく見えたことは一度もない。


たしかに顔は中性的で今時だし、肌は女の子みたいにスベスベ。まつ毛も長いし、身長も180センチ前後だけど私はちっとも加島に心は揺れ動かない。


だって髪の毛はピンクアッシュで右耳にひとつ、左耳にふたつのピアスをして、派手な原色やでかいロゴTシャツを好む加島のような個性的な男子はタイプじゃない。

でもムカつくぐらいの顔の小ささは私にも分けてほしいと思う。


テレビで女装男子とかが多いって言ってたけど、加島が女装したら間違いなく美少女だろうな。私なんて足元にも及ばないぐらい。


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