この恋は少しずつしか進まない



「水沢先輩」

放課後。ホームルームが終わって昇降口に向かうと、下駄箱の前で加島が待っていた。


「今日、うちのクラスのホームルーム3分で終わったんすよ」

加島が屈託のない顔で笑う。


「あれ?なんか元気ないですね。なにかありました?」

「別になんにもないよ」

そう、なんにもない。ただ勝手に思い出して胸がぎゅっとしてしまっただけ。


「具合悪くなったらすぐ言ってくださいね?俺、先輩のことおんぶして買い物するんで」

「そこは中止して帰るところでしょ」

「いや、古着屋は譲れないです。俺、3日間同じトレーナー着てるんですよ。洋服好きの俺からしたらそろそろ限界っす」

「なにそれ」と、言い返したところで、私は自然と笑っていた。


加島と話すと調子が狂うと思ってたのに、今は調子を戻されたような気分。


……加島は気を遣わないから楽だ。

それで、頭でなんにも考えなくても会話が成立する相手は加島ぐらいかもしれない。

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