この恋は少しずつしか進まない
「うーん。やっぱり今日の先輩は変ですよ」
気づくと加島が私の顔を覗き込んでいた。
「そうやって不意に覗くのやめて」
ビックリするし、顔が近くなるから戸惑う。
「だってこうしないと顔見えないんすよ。先輩、小さいし」
「小さくないよ。アンタがでかすぎんの」
「そうですか?たかが179ぐらいですよ」
つまり私とは20センチ以上も差がある。どうりで加島と話す時は首が疲れるわけだ。
「私さ、175センチ以上ある人って、勝手に巨人だと思ってるんだよね」
「なんでですか。話しにくいから?」
「うん。見上げる気持ちは加島には分からないと思うけど」
すると、加島はいきなり難しい顔をしはじめた。私が巨人なんて言ったから気に障ったんだろうか。
「じゃあ、今度から大事な話をするときは座って話しましょう」
私の考えとは裏腹に、加島は思いついたように微笑んだ。
「加島と大事な話なんてする時ある?」
「ないとも言い切れないでしょ?」
じゃあ、ルールに書き足しておかなきゃ、なんて思っている私は完全に加島のペースに飲まれていると思う。