この恋は少しずつしか進まない



「……せん、ぱい。水沢先輩」

気づくと加島が私の顔の前で手を振っていた。「ごめん、ぼんやりしてた」と私の思考はようやく現実に戻る。


膝の上に置いてあるお弁当の続きを食べていると、加島はまだ私に話があるようで隣に座ってきた。

珍しい。いつも一言二言喋れば気まぐれにどこかに行ってしまうのに。


「先輩ってひとり暮らしですよね?」

「違うよ。お姉ちゃんと住んでる」

「でも、あんま帰ってこないって」

「うん。彼氏と半同棲中だからね」

私は返事をしながら黙々とご飯を口へと運ぶ。


「じゃあ、ひとり暮らしも同然ですね。危ないっすよ。女子高生のひとり暮らしは。最近ヤバいやつ多いっすからね。今朝も見ました?空き巣に入られた女性が犯人と鉢合わせてブスッと」


今日の加島は少し変。こんなにペラペラと自分からお喋りをはじめるヤツじゃないのにどうしたんだろう。

まあ、いつもと様子が違うからと言って私にはあまり関係ないことだけど。


「あー見た見た。怖いよね」


……それにしても美伽の帰りが遅いな。

お弁当のおかずを交換する約束をしてたのに、全然戻ってこないからもう厚焼きたまごしか残ってない。



「じゃあ、先輩が刺されないように俺を家に置きません?」


加島との会話を適当に流していたのにまだ話は続いていたようだ。しかもものすごく引っ掛かることを言われた気がする。

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