この恋は少しずつしか進まない
「実は久しぶりに連休が取れて彼氏と二泊三日の旅行に行ってたんだよね」
「そうなの?」
たしかにお姉ちゃんの手にはお土産らしき紙袋。
「クール宅急便だとお金かかるから直接持ってきちゃった」
「なにを?」
「カニ」
「カニ!?」
思わず声が大きくなってしまい、近所迷惑になるとお姉ちゃんを玄関に入れてドアを閉めた。
「しかもタラバだよ。一応冷凍になってるけど、すでに溶けかかってるから早く冷蔵庫に入れないとヤバいかも」と、お姉ちゃんはヒールの高いサンダルを脱ぐ。
こんなに朝早くお姉ちゃんが来ることなんてないから、まさか彼氏と喧嘩でも、と疑ったけど旅行に行くぐらい仲良しで安心した。
「溶けてるならカニは今日中に食べたほうがいい……」と言いかけて。お姉ちゃんの視線が玄関で止まっていることに気づく。
「ねえ、この赤いスニーカーって誰の?」
指さしていたのは、紛れもない加島の靴。
私のだと言えないくらいサイズが大きいし。しかも考えてみれば普通にお姉ちゃんを家に入れてしまったけど、リビングには加島が寝ている。
どうしよう。そんなことを今さら思っても仕方ないんだけど、本当にどうしよう。
「お、お姉ちゃん!今ものすっごく部屋が散らかってるから10分ちょうだい!すぐに片付けてくるからここで待ってて!」
そう告げて、私は急いでリビングに戻った。