この恋は少しずつしか進まない



「でも安心したよ」

「え?」

お姉ちゃんがほろ酔い気分で私のことを見つめていた。


「だって伊織、前の彼氏のことでずいぶん落ち込んでたじゃん。だから伊織をひとりにして大丈夫かなって、ずっと心配だったんだ」


基本的に土日出勤のお姉ちゃんと学生の私じゃ生活のサイクルが違うからなかなか会えなかったけど『大丈夫?』『ご飯食べてる?』と、優しいメッセージはつねに届いていた。


……たしかに辰己さんに振られた時の私はひどかったな。
 
食事も喉を通らなくて今とは真逆にげっそり痩せていた。


「居候には正直ビックリしたけど、加島くんがいれば伊織は大丈夫だなって思ったよ」

「……お姉ちゃん、飲みすぎ」

「まだまだ。加島くん、ついでにビールもう一本持ってきて!」

再び、騒がしくなるリビング。


……加島がいれば大丈夫、か。

そういえば加島と暮らすようになってから辰己さんのことを思い出すことは減っているような気がする。だって考えてる暇がないぐらい毎日が慌ただしいから。

そうやってひとつひとつの想いを消化しながら、いつかまた誰かと恋をする日がくるだろうか。

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