この恋は少しずつしか進まない



私もそれなりに気遣えばマシに見えるってことなのかな。でも見せたい相手もいないし、最近はそれなりでいいや、なんて女を捨ててることは確かだ。


「じゃあ、私が本気出したらすぐに彼氏できちゃうかもね」なんて冗談を言うと、加島の足がぴたりと止まった。


「それは全力で邪魔します。まだ先輩に世話になる気でいるんで」

「なにそれ」


やっぱり加島は私のことを下に見てる気もするけど、主従関係になりたいわけじゃないし、こういうゆるゆるな距離が案外居心地がよかったりしている。


「加島、私、アンタといると楽しいよ」

お酒を飲んだわけでもないのに、らしくない言葉が出てきた。


――『加島くんがいれば伊織は大丈夫だなって思ったよ』


その大丈夫がなにを指すのか分からないけど、加島といるとなにも考えずに笑っていられる気はしている。


「俺も楽しいですよ」

加島が嬉しそうに笑った。


加島を受け入れたことで救ってあげたような感覚がしていたけど救われているのは……。


私のほうかもしれない。

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