この恋は少しずつしか進まない
「え、ごめん。もう一回言って?」
「俺を家に置きませんか?」
「……ちょっと意味わかんない」
「だから、防犯対策として」
「遠回しな言い方じゃなくて」
すると加島は神妙な顔つきでくるりと体勢を変えて、何故か足は正座だった。そして……。
「帰る家がなくなりました。暫くでいいので先輩の家に住まわせていただけないでしょうか」
もう一回言ってと聞き返せないぐらい、はっきりと私の耳に届いてしまった声。
「え、え?」
動揺しすぎて思わずお弁当箱をひっくり返してしまうところだった。
「お願いします!!俺を犬だと思ってください」
まるで神頼みをするように加島は深く頭を下げる。中庭を横切っていく人たちがその光景を何事かというような視線で見ていた。
「えっと、待って」
「待てもできます!犬なんで」
「いやいや、その待てじゃなくて……」
混乱のしすぎて頭が痛くなってきた。なのに加島は本当に子犬のような瞳で私のことを見つめてくる。
他の女子ならこれで落ちるのかもしれないけど、私は容赦なく迷惑そうなため息を露骨に吐いた。