この恋は少しずつしか進まない
そして放課後。日直の仕事が長引きそうだったから、加島に家の鍵を預けることになった。
「絶対になくさないでよ」と、語尾を強くして手のひらに乗せる。
「なんか鍵開けて中に入るってドキドキしますね」
「開けづらいならドアの前で待っててもいいよ」
「いえ、がっつりリビングでくつろいで待ってます」
大丈夫かな……なんて心配はあるけど、学校で待ってもらったら一緒に帰ることになるし。
付き合ってるんですか、とまた在らぬことを聞かれたくないから、とりあえず今日は先に帰ってもらうことにした。
それから校舎を出たのはいつもより30分近く遅い時間で、担任にあれこれと雑用を押し付けられたのが原因だ。
ちょうど美伽から来週に遊びにいく件でメッセージが届いてスマホの画面をタップしていると……。
「あ」
そんな声に私は顔を上げる。
その人物は私を見るなり不快感を丸出しにしていて、彼女も同様に学校帰りのようだった。
「り、理沙ちゃん……」
この間はあんな形で加島を引っ張っていってしまったらすごく気まずいし、私に対して怒っていることは表情を見ればすぐに分かる。
「おばさんが気安く私の名前を呼ばないで」
「お、おば……っ」
年上の威厳はどこへやら。おばさんと言われたショックが拭えない。
「ちょっと話あるから顔貸してよ」
しかも上から目線で呼び出される始末。
ここに加島がいなくてよかった。
また一緒にいるところを見られたら、飛び蹴りくらいはくらっていたかもしれない。