この恋は少しずつしか進まない
「理沙ちゃんの気持ちはすごく分かった。でも私のことをその、おばさんって呼ぶのはやめてくれないかな」
「は?高校生なんて私から見たらおばさんだし」
「待って。それなら、加島もおじさんってことになるよ?」
「直人はおじさんじゃなくて王子さまだから」
……王子さま、ね。
恋は盲目なんて言うけど、理沙ちゃんは本当に加島のことしか見えていないようだ。
「直人はね、私がワガママ言ってもなんでも許してくれるし、悲しいことがあったらよしよししてくれる。本当に私の王子さまそのものなの」
あれ、今なんだか引っ掛かった。
こんなに嫉妬深い理沙ちゃんと付き合うには相当な体力が必要だと思うし、手を焼いたこともあったはず。それでも加島は理沙ちゃんと付き合っていた。
親同士が仲がいい、家が隣同士、だから必然的に。
そうやって周りが決めてしまった部分も多少あるとは思う。
背が高いし、優しいし、私の理想だから王子さま?
それなら、加島の中身は?
加島は欠点なく見えるけど、実はそうじゃない。
私と同じように抜けている部分もあるし、段ボールで家まで作ろうとするぐらい不安定なところもある。
――『俺、誰かに髪の毛拭いてもらったの初めてです。いいもんですね。やってもらうのも』
そして心の奥底では、甘えたいと思う願望だってあるはず。