この恋は少しずつしか進まない
それから家に帰ると、加島がリビングでテレビを見ていた。
「ずいぶん遅かったですね。どんだけ日直の仕事やってきたんですか」
くつろいで待ってると言っていたくせに、どうやら部屋の掃除もしてくれたようで、おまけにカレーのいい匂いまで漂っている。
「無難に中辛にしちゃいましたけど、甘口とかのほうが良かったですか?」と、加島が言い終えたところで。すぐに私の顔を見てあることに気づいた。
「どうしたんすか、これ」
まだカバンすら置いていない私の頬を指さす。
「赤くなってますよ」
鏡を見てないから分からないけど、手跡が付くんじゃないかってぐらいの勢いだったから赤みはまだ引いてないようだ。
「蚊に刺された」
相変わらず嘘が下手くそ。
「いやいや、そんなに広範囲を赤くするぐらいのでかい蚊がいたなら新種だから今すぐ研究者に連絡したほうがいいすよ」
真に受けているのか、からかっているのか。加島はすぐに冷蔵庫から氷を持ってきてくれた。
「冷やすからじっとしててください」
ここは私の家なのに、加島に誘導されるようにソファーへと座った。