この恋は少しずつしか進まない
「友達多いんだから別の人に頼んでよ」
むしろなんで私なのって感じだ。友達だけど特別に親しくしていたわけじゃないし、連絡先は知っていてもメッセージのやり取りはしない。
私と加島の関係なんてその程度。
「いるでしょ、ほら。加島くーんって寄ってくる女子とか」
「俺に好意があると分かってる子の家に行けるわけないですよ」
ほう、と加島が来るもの拒まずの猿みたいな男じゃないことは分かった。でもやっぱり私に頼むことはないと思う。
「だったら男友達の家に行けば」
「高1男子の部屋がどれだけむさ苦しいか知ってます?そんなところに寝泊まりしたくないっすよ」
「泊まらせてもらうんだから贅沢言っちゃダメでしょ」
「贅沢じゃないです。俺はちゃんと長期的なことを考えてるんですよ」
「ちょ、長期なの!?」
私の声のボリュームとは真逆に加島は「そうですよ」と、平然と答えた。
だったら尚更受け入れるわけにはいかないと、私は卵焼きが入っているお弁当箱を包んで教室に戻る準備をはじめる。
「どんな事情かは知らないけどうちは無理だから」
そう言って立ち上がろうとする私の腕を加島はすがるようにして掴んだ。
「そこをなんとかお願いします!!俺洗濯とか全部やるんで」