この恋は少しずつしか進まない



キッチンに立つの面倒くさいって今まで思ってたけど、今日は久しぶりだったおかげかそうでもなかった。

むしろ、誰かのお弁当なんて作るのは初めてだったから、卵焼きひとつにしてもめちゃくちゃ慎重に作っちゃった。


「どうしたんすか、先輩。俺が寝てる間に滝にでも打たれに行ってたんですか?」

「………」

失礼なことを言うのは相変わらずだけど、お弁当を没収してやろうと思うほど腹は立たない。


「別に。ただ自分で食べるものなのに加島にずっと作ってもらうのは違うかなって」

昨日はなかなか寝付けなかったこともあって、天井を見つめながら少しだけ気持ちを考え直したのだ。


「置かせてもらってるんでそれぐらい俺が……」

「いいよ、これからはあんまり気にしなくて」

 
私も置かせてあげてるんだからって気持ちはなくす。

家はリラックスするものだし、あれやらなきゃ、これもやらなきゃって忙しなくする生活はしてほしくないから。


「俺が役立たずでも追い出しませんか?」

「はは、今さら追い出さないよ」

「……はあ、よかった。実はいい子にしなきゃってずっと気張ってたんですよね」


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