亘さんは世渡り上手
父さんは大きく目を開いてから、ゆっくりと目を閉じる。
「……そうか」
優しい声だった。でも、少し震えていた。
父さんは目頭を押さえて顔を伏せる。
泣いているのだろうか。……なんて、あたりまえだ。俺は、この三年間ずっと父さんだけを信頼していた。それはきっと父さんにも伝わっていただろう。
「最近、理人の帰りが遅い日は、心配すると同時に期待もしていたんだ」
父さんは、眉を下げてそのたれ目を細くしながら言った。
テスト勉強会のことだ。
父さんには、初日以降ちゃんと遅くなるかもしれないと連絡を入れていた。クラスメートと、勉強をするかもしれないと。
俺は、父さんにあいつらのことを友達だと言ったことがなかった。
「おまえも、ちゃんと前に進めているんだな……」
まだ自信がなかったんだ。本当に友達だと言っていいのか。本当にあいつらのことを信用してもいいのか。
でも、それよりも。
自分を一番信用できていなかった。アイツに狂わされた人生、『和泉理人』、それが、俺の意思を阻止していたんだ。
きっと、亘さんのメモ帳を見る勇気がないのだって――亘さんが、『和泉理人』にも関心を持っているからだということを知っているから。