亘さんは世渡り上手
「理人……父さんは、おまえの幸せを一番に願ってる」
ゆっくりと噛み締めるような父さんの声が、耳から脳や、心に広がっていく。
「理人が考える必要なんてないんだ。好きなように、好きな人と、好きなだけ、一緒にいればいい。不幸の分、二倍にも、五倍にも、百倍にも、幸せになろう」
父さん――。
頬に伝った涙が、テーブルの上に弾けた。涙が止まらない。
俺は、今までずっと悩み続けていたけど、父さんに相談したことなんてなかった。父さんに、心配をかけたくなかったから。
父さんは、俺を救おうとしてくれていたのに。
そして、今、救ってくれたのに。
「父さん、ごめん……俺、ちょっと電話してくる」
この気持ちが治まる前に早く伝えないと。
食事中だけど、席を立った。
父さんは眩しいくらいの笑顔で俺を見る。その目尻には涙が滲む。親子揃って同じ顔だ。
父さん、俺は救われたよ。だから、今度は父さんの番だ。
父さんが救われる方法が俺が幸せになることなんだって言うなら、俺は世界一の幸せ者になって見せるよ。
俺は『和泉理人』じゃない?
いいや、違う。
俺も、和泉理人なんだ。