亘さんは世渡り上手
自分の部屋に入って、まず最初に亘さんのメモ帳を手に取った。
パラパラとページをめくる。丁寧に出席番号順にクラスメートの個人情報が並んでいる。少し怖いくらいだった。
そして――俺のページ。
『和泉くんは優しい』
『和泉くんは照れると可愛い』
『和泉くんは』。それに続くどの言葉も、恥ずかしくなるくらいにほめちぎった言葉ばっかり。亘さんらしくて、笑いがこぼれる。
そして、メモ帳の一番下には。
……亘さんの、バカ。
『わたしはどんな和泉くんでも好きですよ』
こんなの、告白みたいじゃん。
よく考えもせずにこんなの書くなよ。俺じゃなかったら勘違いしてるって。
「はぁ……」
熱い熱い、息が漏れた。顔が熱い。
結局亘さんは、俺がこのメモ帳を中身も見ずに捨てるなんて思っていなかったんだ。
スマホを手に取って、ラインを開いて、通話ボタンに親指を伸ばす。武者震いか、体が一度ぶるりと震えた。
俺はまだ、俺のことを知りたいという亘さんに何も教えてやれてない。
『……和泉、くん?』
驚いた声の亘さんが通話に出た。
通話だからか、いつもとは少し雰囲気の違う声。それでも俺は、肩の力が抜けるような安心感があった。