亘さんは世渡り上手
そういえば、カラオケは久しぶりだ。五月にクラスメートと行ったきりか。
あのときに初めて、亘さんとまともに話して……。嫌いに、なったんだっけ。
もう懐かしいなんて思ってる。嫌いだったことがすっかり過去のことになって。あの頃の俺はこんなことになるなんてこれっぽっちも考えていなかっただろう。
……ほら、こんなときでも亘さんのことを考えてる。
重症だよな、ほんと。
「皐月ちゃんに捧げます。聞いてください、アイラブユー」
「きゃーっ!」
カラオケでの高橋は終始こんな感じだった。皐月はノリノリで黄色い悲鳴をあげてくれる。
いいのかもな、このコンビ。二人とも、すごく楽しそうだし。
このまま進展するかどうかは本人達次第だけど、高橋もこれで少しは失恋の傷が癒えただろ。
「あ、理人くん!」
飲み物を入れにいこうと廊下へ出ると、皐月がトイレから戻ってくるところだった。
小走りして近付いてくる皐月から――ふわりと香る、香水。
目の前が少し揺れた。この香りは――まさか。
「おかえり皐月。……香水付けた?」
「はい! お母さんにもらったのでせっかくだから付けてみたんですけど……キツいですかね?」
「いや……良い香りだな」
そう、香り自体は別に、近付けばふわりと香る程度だ。
でも……この臭いは……。