亘さんは世渡り上手
「高橋も気に入ってくれるといいな」
「あっ……えへへ、そうですね」
恥ずかしそうに頬を赤く染めながら、自分の髪を触る皐月。
俺は、早くこの場を離れたくて仕方がなかった。
じゃあ、と言って皐月と別れる。足早にドリンクバーへ行って、深呼吸をした。
まだ、喉の奥であの臭いが絡み付いている。爽やかなのに、それでいて甘い。本来なら、不快になんてならない――そんな臭い。
落ち着け、偶然だ。商品なんだから、同じものを持っている人なんてたくさんいる。ただ、アイツと皐月の母親の趣味が合ってしまったという話だ。
「父さん……亘、さん……」
それでも、俺は安らぎを求めてしまう。
いったい俺は、いつアイツのことを忘れられるんだろう。
いったいいつまで、父さんと亘さんにすがるつもりでいるんだろう。
亘さんに会いたい。
いや、別に会えなくても……そうだ。ラインくらいは、軽く送ってもいいよな? メッセージのやり取りより先に、通話もしたわけだし。
亘さんには、重要な連絡だけでいいって言ってしまったけど。
ちょっとだけ、『今何してる?』くらいは――あれ? それってキモくないか? なんか彼氏面してるみたいで。
わからない。男女の友達って、どこまでなら友達っぽいんだ?
とりあえず、夏休み中に遊べる日がないか聞いてみようかな……。