亘さんは世渡り上手
亘さんに会いたい
「じゃあ、安静にするんだぞ、理人」
「うん……いってらっしゃい、父さん」
今日は、亘さん達と遊ぶ約束をしていた日だ。
俺は胸の高ぶりからか、朝早く目覚めて支度をしていた。集合は、午後からだというのに。
そのときに、なんか暑いのに寒いなぁだとか妙にくしゃみかでるなぁだとか、そんなことを思ったのは覚えている。いくら夏とはいえさすがに朝は冷えるし、特に気にも止めていなかったのだが。
それがいけなかった。
――まさか、今日に限って夏風邪を引くなんて……。
ベッドへ横たわって父さんを見送った俺は、額に貼られた冷却シートに怒りさえ覚えた。
おかげで、ドタキャンする羽目になったじゃないか。くそ、昨日暑くて窓を開けっぱなしにして寝たのがいけなかったのか、それとも寝る前にアイスを食べたのが……どっちもだろうな。
布団にくるまって自己嫌悪に陥る。
亘さんに会えるの……楽しみにしてたのに。
ラインの通知音がした瞬間、俺は即座にスマホを取った。亘さん、今起きたのかな。
『そうですか……他のみなさんにも連絡しておきました。お大事に』
あー、会いたい。
弱ってるのか、ひとりで家にいるのが急激に寂しくなった。
夏休み。ひとり。セミの声。
思い出すわけにはいかないのに、思い出したくないのに、俺の脳は勝手にあのときのことを記憶から引っ張り出してくるのだ。