亘さんは世渡り上手
――ねぇ、愛してる?
嫌いだ、あんたのことなんて。
――理人も、私のこと愛してるわよね?
俺も、あんたも。お互いのことなんて愛してなかったよ。
あんたが愛してたのは、俺じゃなくて愛だった。
――私、理人のことを愛してるわ。
嘘だったくせに。
――だから私のことも愛してね。
結局、俺からの愛じゃなくてもよかったじゃん。
爽やかなのに甘い香りだったアイツは、毎日のように俺のことを抱擁していた。
「愛しているわ、理人」
毎日のように耳元に入る甘い囁き。一滴垂らせばそれは快楽に溶け込み、甘い痺れへと形を変える。
俺はそれを愛だと信じて疑わなかった。
自分は愛されている。だから、俺もアイツを愛してあげる。それが普通。愛の理だ。
きっと、しばらくの間は本当に愛だったのだと思う。
ただ、中学に上がって少し経ってから、アイツの様子はおかしくなった。
何かに怯え、何かに渡すまいと言わんばかりの強い抱擁。おまけに、何かぶつぶつ呟いていた。
「理人……いかないで……やめて……」
俺はここにいるのに、アイツは俺のことなんて見なくなっていったのだ。