亘さんは世渡り上手


友達でいたいもんな。俺も亘さんも。


喉が渇いて、ベッドから起き上がる。暑いのに、くしゃみが出た。ぶるりと体が震える。


あー、お見舞い、どうしようかな。本当に頼んでしまおうか。亘さんならきっと来てくれるだろう。まぁ、お見舞いって本来頼むものじゃないけどさ。


ただ、亘さんひとりじゃ色々と問題があるから、来てもらうなら高橋達も一緒になるんだけど。それは、亘さんと二人で話がしたい俺としては嫌なんだよな。



「……やめよ。冷静になれよ、俺」



風邪のせいだ。風邪のせいで頭が回ってないんだ。


水をコップに注いで、ぐい一気に飲む。火照った体が冷えて気持ちいい。


やることもないし、また寝よう。


ベッドに戻って目を閉じた。



――理人、お母さんがついてるからね。



昔は、風邪を引いたとき、母さんが隣で見守ってくれていたっけ。柔らかい笑顔で俺を見つめて、俺はそれに安心して眠りについていた。


今はもう……いないけど。


あの優しい笑顔も、優しい声も、もう聞けることはない。


今となっては、そういえば俺にも母さんがいたっけな。なんて、そんな程度の存在だ。記憶も曖昧だし、本当にいたのかどうかも怪しい……そう思い始めるほど。


それでも、俺は母さんが好きだった。


それだけは覚えている。

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