亘さんは世渡り上手


それからラインの会話は自然と終わり、夕方くらいになれば熱もだいぶ下がっていた。


父さんももうすぐ帰ってくるだろう。あまり動きすぎても心配して叱られるかな、とは思いつつ、洗濯物を取り込んで畳んでおいた。


次にみんなと会えるのは来週だ。宿題を何かひとつ終わらせる勉強会をしてから、谷口と八木が観たいという映画を観に行く。


映画といえば、思わず亘さんとのデートを思い出す。今思えば、あれはどう考えてもデートだった。ただ、あのときと違うのは俺と亘さんが友達だということだ。


あのときの俺は、まだ、亘さんのことを……。亘さんは、あのときからずっと俺と友達で居続けたいと願っていたのに。


もう大丈夫だ。


もう間違えない。大切なものを失わない。


だっておかしな話だ。俺はもう人気者の和泉理人じゃないのに。ただの俺で、ただの和泉理人なのに。


亘さんのことを好きな和泉理人じゃないのに。


それがどうして、友達以上なんて結果になるのか。


俺は少し亘さんに依存しすぎたのだろう。亘さんばかり求めてしまった。これが谷口だったなら、ただの恋で済んだのにな。


だから、俺はもっと周りにも目を向けるようにしなければならない。亘さんばかりではなく、もっと他のみんなにも頼っていく。


目を閉じて一番に思い浮かぶのは亘さんだけじゃなくて、五人にしなければ。

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