亘さんは世渡り上手
「ただいまー」
父さんの声が聞こえた。
「理人、調子はどうだ? 今夜はおかゆにしよう」
俺は体調の良し悪しと今日のこと、それから来週のことを父さんに報告するために、玄関へ向かう。
「父さん、もう平気だよ。それから――」
顔を合わせると同時に抱き締められた。少し急いで帰ってきてくれたのか、息が荒かった。深く上下する父さんの胸に頭を押し付ける。
もう一度、俺はもう平気だと伝えるために、ゆっくりと抱き締め返した。
「あのさぁ、父さん。もう大丈夫だって何回言ったらわかるの?」
「うん、わかってる。理人はもう大丈夫だ。だから……これは父さんの充電だ」
「充電?」
「そう、充電。家に帰れば俺を慕う息子が俺の出迎えをしてくれる。それのなんと愛しいことか」
「あはは、なにそれ」
変な父さん。
……なんて、嘘。
父さんだって母さんがいなくなって少しは悲しいのだろう。途中までは仲睦まじい夫婦だったんだからなおのこと。
俺は父さんに愛されている。
俺も父さんを愛している。
だから思っちゃいけない。
もし、俺がいなかったら……なんて。