亘さんは世渡り上手
……花火大会、ねぇ。
「……俺も行きたいな、花火大会」
父さんと。
最近父さんと出掛けてないし、いいかも。晩ご飯を屋台で済ましてしまうのもたまには悪くない。
「あ、じゃ、じゃあ私と」
「ん?」
谷口か何か言った気がした。ちょっと聞いてなかったけど、確実に俺に顔が向いてるし、俺に言ったよな?
「あっ……い、今じゃなかったか……。えっと、理人さ! 素の感じもいいと思う……見た目とのギャップで……」
「わかる。黒王子ってやつだよね」
「う、うん……」
久しぶりに喋った八木の黒王子……はよくわからないけど、俺の素に関しては全員が受け入れてくれたみたいだった。
いや、おまえら、心広すぎだろ……。感謝しかない。
谷口に受け入れられてしまった。
俺からも少しは歩み寄ろうと隣に座った席。俺からこんなことをするのは初めてで、簡単にやるやつはすごいなと思う。はっきり言って、ちょっと恥ずかしい。
でも、この意識するっていうのが大事だ。恋とは、まだ確実に違うと言い切れてしまうけど、谷口に対する感じかたをガラリと変えることができる。
花火大会を谷口と……は、早い気がする。気持ちの準備ができそうにない。
「前とそんなに変わらないところもありますしね」
ノートを閉じる亘さんが言った。
あ、課題全部終わったっぽいな。