亘さんは世渡り上手
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「じゃあねー!」
手を振る谷口に軽く振り返す。
谷口と八木が一緒に帰っていく後ろ姿を見て、俺達も駅へと向かい始めた。
それにしたって空気が重い。
「亘さん、大丈夫?」
「……っえ?」
今までずっと下を向いて歩いていた亘さんが、俺の言葉で顔を上げる。
谷口と八木がいたときはまだいつも通りだった気がしたけど、別れた直後にこの有り様だ。高橋と宇佐美からは、おまえがなんとかしてくれという視線ばかり送られてきた。
「あ……すみません。少し考え事をしてしまって……」
亘さんらしくない。
そりゃあ悩みのひとつやふたつ、誰にだってあるだろう。でも、それを見せないのが亘さんだ。見せずに、自分で勝手に行動するのが亘さん。
こんなに露骨に気分が沈むほど、何かあったってことなんだろうか。
「和泉くん……」
俺を見上げる亘さんの表情に、胸が大きく鼓動を打った。
俺に、助けを求める目だ。
自分で解決しようとする亘さんが、俺に、俺なんかに、頼ってくれている。
ずっと、亘さんに頼ってばかりじゃダメだと思ってた。俺だけが不幸なわけじゃないし、亘さんが幸せなわけじゃないから。
俺が、亘さんの力になれることがあるなら……。
「相談が、あるんです。……和泉くん」