亘さんは世渡り上手



「あぁ、理人。タイミングがいいね。ちょうどできあがったところだ」



いい香りに誘われてキッチンへ向かうと、鍋をかき回しながら父さんが振り向いた。中身はビーフシチューだ。俺の好物。



「いい匂いです……」



亘さんがふわりと微笑んだ。よかった、あのまま連れてきちゃったけど、食欲がなんとか勝ってくれたようだ。


俺の隣に亘さんが座る。



「……ちゃんと、話できたか?」



父さんが器によそったビーフシチューをテーブルに置きながら、優しい顔で聞いてきた。



「うん……全部話したよ」



父さんと目が合わせられないでいると、父さんは目線を俺から亘さんに切り替える。


「叶葉ちゃんは、どうだった?」


「えっ? ど、どう、とは……」


「どう思ったの?」


「あ、ええと……変わらないです。和泉くんが、わたしのことを信じてくれているって、わかりますから」



その言葉で、父さんは優しそうな笑顔をやめた。


でも、とても満足そうだった。



「うん、合格だ。叶葉ちゃん、これからも理人のことをよろしくね」



そして、三つ目のビーフシチューがテーブルに並べられる。


亘さんが、父さんに認められた。


これは、このまま亘さんと付き合って行ってもいいってことなんだろうか。



「じゃあ、食べようか」



父さんが前のイスに座る。


三人で手を合わせた。



「「「いただきます」」」



そのとき、父さんと目が合った。亘さんには気付かれないように、ウインクをされる。


あれ……? もしかして……。

< 150 / 291 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop