亘さんは世渡り上手
「あぁ、理人。タイミングがいいね。ちょうどできあがったところだ」
いい香りに誘われてキッチンへ向かうと、鍋をかき回しながら父さんが振り向いた。中身はビーフシチューだ。俺の好物。
「いい匂いです……」
亘さんがふわりと微笑んだ。よかった、あのまま連れてきちゃったけど、食欲がなんとか勝ってくれたようだ。
俺の隣に亘さんが座る。
「……ちゃんと、話できたか?」
父さんが器によそったビーフシチューをテーブルに置きながら、優しい顔で聞いてきた。
「うん……全部話したよ」
父さんと目が合わせられないでいると、父さんは目線を俺から亘さんに切り替える。
「叶葉ちゃんは、どうだった?」
「えっ? ど、どう、とは……」
「どう思ったの?」
「あ、ええと……変わらないです。和泉くんが、わたしのことを信じてくれているって、わかりますから」
その言葉で、父さんは優しそうな笑顔をやめた。
でも、とても満足そうだった。
「うん、合格だ。叶葉ちゃん、これからも理人のことをよろしくね」
そして、三つ目のビーフシチューがテーブルに並べられる。
亘さんが、父さんに認められた。
これは、このまま亘さんと付き合って行ってもいいってことなんだろうか。
「じゃあ、食べようか」
父さんが前のイスに座る。
三人で手を合わせた。
「「「いただきます」」」
そのとき、父さんと目が合った。亘さんには気付かれないように、ウインクをされる。
あれ……? もしかして……。