亘さんは世渡り上手
「はぁー、遊んだ遊んだ!」
階段に座りながら、谷口が空をあおぐ。亘さんもその隣に座って、俺から焼きそばを受け取った。
「亘さん、楽しかった?」
「え?」
「楽しかったかって聞いてるの!」
「……は、はい。それは……すごく、とても、楽しかったです」
亘さんの言葉に、谷口はどや顔を俺に向けてくる。
「どう? 亘さんを楽しませてあげたけど?」とでも言いたげで、「ありがとう」と返した。亘さんは真ん中で目を丸くして、俺と谷口を交互に見ている。
「……ええと、どういうことですか?」
「いや? 理人がさぁ、『亘さんを元気付けたいよぉ~助けて谷口~』って泣きついてきたんだよねー」
「お、おい、そんな風には言ってないだろ」
「しーらなーい。私にはそう聞こえましたー」
谷口はとことん俺に意地悪だ。それでも後からおかしそうに笑うのは、別にからかいたい程度のものだからだろう。
「元気付けたい?」
「どうせ笑顔の練習がうまく行ってないんでしょ? 私は今日も笑ってたと思うけどね」
「私、元気がなかったでしょうか……」
「うーん、知らないけど。理人にそう見えたんだったら、そうなんじゃない?」
「……」
亘さんは黙ってしまう。
今日は、本当に少し笑っていたように見えたけど、俺と二人だけのときに見せたような完全な笑顔ではなかった。