亘さんは世渡り上手
つまり、亘さんは俺の前以外ではまだ笑顔になれないということだろう。
なぜそうなのかは、まだわからない。
亘さんは、理由をわかっているのだろうか……。
「まぁとりあえず、ご飯食べない? 理人、フランクフルトちょうだい」
「あ、あぁ……」
谷口にフランクフルトを渡す。
谷口はこういうとき無理に何かを言うわけでもなく、放っておくのか。空気なんて気にせず、「亘さんも食べなよ」と言いながら、フランクフルトを頬張っている。
ただ、浮かない顔をした亘さんを一瞥すると、
「もし、笑顔の話じゃないんなら。もし、私に言っておくべきことがあるんなら、早めに言っておいてね。後から言ったんじゃ、後悔するかもよ」
と言った。
なんというか、女子同士の空気感だ。俺には話の脈絡がさっぱりわからなかったけど、たぶん、二人の間では伝わっている。
やっぱり、同性だからこそわかることっていうのはあるんだろう。
「……わたし」
しかし、
「谷口さんを、下の名前で呼びたいんです」
「……は?」
重い空気から一転、亘さんから飛び出したのは、突拍子もないような内容だった。