亘さんは世渡り上手


つまり、亘さんは俺の前以外ではまだ笑顔になれないということだろう。


なぜそうなのかは、まだわからない。


亘さんは、理由をわかっているのだろうか……。



「まぁとりあえず、ご飯食べない? 理人、フランクフルトちょうだい」


「あ、あぁ……」



谷口にフランクフルトを渡す。


谷口はこういうとき無理に何かを言うわけでもなく、放っておくのか。空気なんて気にせず、「亘さんも食べなよ」と言いながら、フランクフルトを頬張っている。


ただ、浮かない顔をした亘さんを一瞥すると、



「もし、笑顔の話じゃないんなら。もし、私に言っておくべきことがあるんなら、早めに言っておいてね。後から言ったんじゃ、後悔するかもよ」



と言った。


なんというか、女子同士の空気感だ。俺には話の脈絡がさっぱりわからなかったけど、たぶん、二人の間では伝わっている。


やっぱり、同性だからこそわかることっていうのはあるんだろう。



「……わたし」



しかし、



「谷口さんを、下の名前で呼びたいんです」


「……は?」



重い空気から一転、亘さんから飛び出したのは、突拍子もないような内容だった。

< 159 / 291 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop