亘さんは世渡り上手


亘さんに好きなものを教えていくと熱心にメモを取ろうとするので、手の中のペンを奪いあげてみた。



「あっ……。メモ、してはいけないことでしたか?」


「そうじゃないよ。ただ……普通は、メモなんてしなくても覚えられるでしょ?」


「……そう、ですよね」



亘さんは下を向いて、見るからに落ち込んだ。


その瞬間、俺は感付く。



――亘さんの弱点は、メモなんじゃないか?



つり上がりかけた口角を奥歯を食いしばることで制御し、亘さんにペンを返した。


ほっと肩を落とす亘さん。



「なんでそんなにメモしたいの?」


「……それは、みなさんのことを知りたくて」


「それ以外に。何か、あるんだよね?」


「…………」



亘さんは、答えなかった。


まぁ、いい。


答えないということは、何かしら他に理由があることは確定だということだ。


もしかすると、その理由が亘さんの更なる弱味に繋がるかもしれない。


自分の弱点を暴かれる前に、相手の弱点を見抜け。


攻撃は最大の防御とはこのことか。

< 16 / 291 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop