亘さんは世渡り上手
これこそ脈絡がない。
俺と谷口はポカンと口を開けて、頬を染めて恥ずかしそうに胸を押さえる亘さんにパチパチとまばたきをする。
「……えっと、ん? ……んん? ど、どういうことだ? 待って、ちょっとわかってない」
谷口に至っては理解の範疇を越え、「ん? んん? んんんん?」と頭を抱える始末。
「もっと谷口さんと仲良くなりたいんです。でも、その、ライバルじゃないですか、わたし達。だから、仲良くなりすぎるのもどうなのかなって……悩んでました」
「待って! ストップ!! 今聞き捨てならない言葉が聞こえたから! 本来私が聞きたかった方の話を流してるから!」
「……ゆ、悠里ちゃん」
「勝手に話を進めて下の名前で呼ばないで!? 私まだ許可してない!」
ここで初めて明かされる真実――谷口の下の名前が悠里であること。
正直俺は谷口の下の名前なんて咄嗟には出てこない。高橋達の下の名前だって、普段呼ばないから曖昧だ。というか、呼ぶ人の方が珍しいくらいだろう。
「あれ? 理人くん?」
谷口が頭を抱えて暴れまわる傍ら、後ろから声をかけられた。
「おー! 奇遇だな、三人とも!」
浴衣姿の高橋と皐月だった。
「啓介くん、みんな知り合いなの?」
「おう! みんな同じクラス!」
あ、いた。高橋を下の名前で呼ぶ人。