亘さんは世渡り上手
……え? あ、そうか。亘さん、笑ってるのか……。
俺の前以外でも笑うんだな。
ん? なんだ、これ。胸がなんかムカムカして……胃もたれ?
いやいや、違うだろ。
もしかしてこれって……俗に言う、独占欲?
谷口に名前で呼ばれた途端笑うってそれ、露骨すぎるだろ。
つまり、亘さんが笑顔になれる条件って……信頼しているかどうか、なんだろうか。
亘さんはお互いが名前呼びできたことに対して、谷口との距離が完全に信頼できるようになったと感じたってことだ。
それは、亘さんが誰とでも笑い合えるようになる一歩で、良いことなんだろうけど……俺は、亘さんの笑顔を独占したいと思ってる。
俺と谷口はまだ友達っていう同じ土俵の中にいて、差も大きくない。
なのに独占したいなんて……自分勝手すぎるよな。
自然と全員が花火を見上げるようになっていた。谷口がスマホで写真を撮る音が聞こえる。
……写真。
もしかして、亘さんは――自分のことを信頼してないのか?
俺と、同じだ。
同じだった、という方が正しいか。だって俺はもう克服したんだから。
俺は、本当の自分が信頼できなかったから、周りに対して偽りの自分を見せていた。
対して亘さんは、自分が信頼できないから、周りに本当の自分を見せられないでいた。周りに気を遣って、良い子を演じていたんだろう。