亘さんは世渡り上手
振り向けば、皐月と高橋が身を寄せあってニヤニヤと俺を見ていた。
「青春だねぇ、理人くん」
ニヤニヤニヤ。
「青春だなぁ、理人」
ニヤニヤニヤ。
「~~っ!」
こ、こいつら……っ!
自分達はうまく行ってるからって、からかいやがって……!
俺も叶葉と言い返したかったけど、完全にタイミングを失ってしまった。というか、俺は、谷口もいるのにそんなリスクの高いことはできない。
いや、谷口は別に俺に直接告白をしてきたわけじゃないし、知らないふりをして亘さんにアプローチするというのもダメなわけじゃない。
でも……少なからず谷口も俺に心の影響を与えた人なわけで、彼女の目の前で亘さんだけを見るのは、罪悪感がじわじわと出てくるものだった。
「理人くん、過剰に愛を求めるのはダメですよ」
そんな考えを巡らせていると、皐月が俺のことをまっすぐと見つめてひそりと言った。
さっきまでのからかいの姿勢はどこへ行ったのか、真剣な表情だ。
「二兎追う者は一兎をも得ず。有名なことわざじゃないですか」
それは暗に、「うやむやにするのはやめろ」ということなんだろうか。
え、でも皐月って、亘さんと谷口のことは何も知らないはずじゃ……。どうして、そんな的確なことを言えるんだ?
「皐月ちゃん、良いこと言うなぁ!」
「えへへ、でしょ?」
高橋にほめられると、髪を触りながら照れる皐月。
俺は、皐月に初めて会ったときのような胸のざわつきを感じていた。