亘さんは世渡り上手
二兎追う者は一兎をも得ず……つまり、俺は亘さんを好きになりつつも谷口を手離さないようにしてるってことか?
花火大会が終わって、ぞろぞろと帰ってくる集団に混じり、俺達も帰ることにした。
だけど、その前に俺は高橋とともに人混みに消えようとする皐月を呼び止める。
「皐月、待ってくれ! なぁ、どうして皐月は……」
「理人くんの性格なら、そうしちゃうかなぁって思ったんです」
皐月は微笑む。
いや、だから、なんで会ったのなんて数日しかなくて会話もそんなにしてないのに、俺の性格なんて把握してるのかっていうことを聞きたいんだけど……。
複雑な顔をする俺に気付いて、
「そのうちに」
とだけ呟き、高橋の袖を掴んで「行こう、啓介くん」と歩き出す。
遠ざかっていく背中から「なんの話だったんだ? 皐月ちゃん」「さぁ、実はよくわからなかった」という会話聞こえてきて、俺は開いた口が塞がらなかった。
「……和泉くん、大丈夫ですか? どうしました」
「いや……なんでも、ない……」
心配してくれる亘さんに対する嬉しさよりも、俺には皐月の不信感の方が強くて、後ろ姿から目が離せない。
気のせいじゃ、なかったのか……? 合コンのときに感じた皐月の、不自然な視線は……。