亘さんは世渡り上手
第四章『恋人』
亘さんと文化祭(準備)
「「ミス・ミスターコンテスト?」」
ホームルームの時間、文化委員の言葉に、俺と亘さんの声が揃う。
夏休みが明けて、すっかり次のイベントである文化祭に向けて浮かれた気分が飛び交っていた。
夏休みの課題は毎週六人で勉強会をしたことによりなんとか全員乗り越え――若干一名逃亡を謀ろうとした男もいたが――六人で遊ぶ機会がたくさんできた。
そして、高橋が皐月と付き合い始めた。
これは、谷口の言葉から少し喜びにくいことなんだけど、高橋の嬉しそうな顔を見ると一瞬吹き飛んでしまう。だから今は一応、嬉しいことのひとつだ。
「二人なら優勝間違いなしだよ!」
文化委員はぐっと拳を握り、教壇の上で俺達ににっこりと笑う。
「ええと……でも……」
亘さんが困った顔で俺を見る。
どうやら、乗り気ではないらしい。
そもそも、どういうものなのかもよくわからないまま、勝手に推薦されたわけなんだけど。
「あ、叶葉がやらないなら、まぁ? 私がやってあげてもいいかなーって?」
谷口が立ち上がる。髪をファサッとなびかせようとするも、ショートボブだったためにうまくできていない。ファ、くらいで終わっていた。
「えー? ゆうぽんは微妙じゃない? 主に顔面偏差値的な意味で」
「普通に失礼なんだけど!? ゆうぽんってなに!?」
変なあだ名付けないでよ! と文化委員に谷口がキィキィ騒げば、教室の中で笑いが起きる。
夏休み明けの谷口は、本性というよりは、いじられツッコミキャラに成り果てていた。