亘さんは世渡り上手


谷口は亘さんの頬を摘まんで、左右に動かした。表情はなんとも気に入らなさそうな不服顔で、尖らせた唇からはぶつぶつと文句が垂れる。



「むーん、今までピクリともしなかったくせに、急に無表情の美少女からただの美少女に成り変わりやがって……そんな叶葉にはこうだ!」


「い、痛いです……」


「痛くしてんの!」



俺は思わずふっ、と息が漏れた。


だって、その光景はまるで……



「まるで親友みたいだな」


「はぁ!? ちょっ、理人やめてよ! 私と叶葉はそんなんじゃないから! だいたい、私には八木が……」


「親友って別に一人じゃなくてもいいんだよ、谷口?」


「えっ、や、八木……?」


「あれぇ? あたしのことは名字呼びなのに、亘さんのことは名前呼びだなぁ? これは、名前呼びの方が仲良さそうに見えるなぁ~?」



ニヤニヤとしながら繰り出される八木の言葉が谷口の心に突き刺さっていく。うめき声を出しながら、谷口は腹を押さえて前屈みになった。



「い、いやいや! 私は叶葉と親友とかじゃないし!」


「えっ、わたし親友だと思ってました」


「ライバルでしょ!?」


「ら、ライバル兼親友では駄目でしょうか……」


「百歩譲ってライバル兼友達!」


「と、友達……!」



谷口、どっちにしても亘さんは喜んでるぞ?

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